この節の目次
条件と指標の読み方を、実際の研究へ当てはめよう。Gorisseら(2017)は、1PPと3PPで身体の感じ方と課題成績を調べた。同じ実験の中でも結果の方向が違うことを、測った対象を残して説明するのがこの節の目標だ。
身体の動きを反映する二つの視点条件
参加者は28名。HTC Viveを装着し、身体の動きを取得するモーションキャプチャを使った。計算機は取得した動きを、Unityというソフトウェアで作った仮想環境のアバターへ反映する。3PPも、別の人の動作を眺める条件ではなく、自分の身体の動きを使う条件である。
各参加者は1PPと3PPの両方で課題を行い、体験順序は無作為に決められた。比較した課題は次の二つだ。
| 課題 | 参加者が行うこと | 記録する行動指標 |
|---|---|---|
| 飛来球への対処 | 周囲から飛んでくる球に対処する | 対処できた数、球への反応時間 |
| 足場を進む移動課題 | 落下しないように足場を進み、ゴールへ到達する | 移動に要した時間 |
講義p15は球を「避ける」課題と紹介するが、原著は手で球を防御・そらす課題として説明する。この教材では「ボールへの対処」と表記する。身体をよける動作だけを試した結果へ読み替えない。
各視点での実験後には、22項目へ5段階で回答してもらった。身体への感じ方はこの回答、課題の成績は上の記録から読む。課題を成功したことだけで、身体所有感を測ったことにはならない。
行動の結果は、課題と時間を結び付けて読む
講義p24が紹介する方向は次のとおりだ。
| 指標 | 視点比較の結果 | 言える範囲 |
|---|---|---|
| 対処できたボール数 | 明確な差を認めなかった | 対処数の改善は示していない |
| ボールへの反応時間 | 3PPで短かった | この課題では球へ早く反応した |
| 足場を進む所要時間 | 1PPで短かった | この移動課題は1PPで速く完了した |
どちらの時間も短いほうが速い。ただし、球に反応するまでの時間と、移動課題を終えるまでの時間は、始点・終点が違う。3PPの反応が速くても対処数の増加は示されず、移動課題では1PPの時間が短かった。したがって、反応の速さ一つを「すべての課題で高成績」へ広げられない。
感覚の結果は、質問の対象まで確認する
身体所有感への回答は1PPを支持した。運動主体性は全体として明確な視点差を示さないと紹介される。ただし原著には一部の質問で差があり、全質問の回答が同じという意味ではない。
ここで、講義と原著の尺度名を対応させる必要がある。講義p18–19・25は「自己位置感覚」として、環境にいる感じを尋ねる4問を紹介する。原著は、この群をEnvironmental Location(環境内の居場所)と呼ぶ。環境へのプレゼンスに関する群で、4問のうち最初の1問だけが1PPを支持し、両視点とも上限に近い回答を得た。
一方、原著には「仮想の身体の中に自分がいるか」を尋ねる、別のSelf-Locationの質問群がある。こちらは1PPを支持する。この章で学んだ、身体の位置に自分がいるという自己位置感覚に対応する。
| 問いの対象 | 原著の尺度名 | 結果の読み方 |
|---|---|---|
| 自分が仮想環境にいるか | Environmental Location | 差は一部の質問に限られ、双方とも高い回答 |
| 自分が仮想の身体の中にいるか | Self-Location | 1PPを支持 |
「自己位置感覚に差なし」という見出しだけを抜き出すと、二つの質問群が混ざる。資料を読むときは、p19・25のまとめと掲載された質問を組にして読み、原著の区別で補う。Gorisseらの原著のTable 1と結果節で、この尺度と結果を確認できる。
一つの視点を総合的な勝者にしない
この研究では、身体所有感と仮想身体内の自己位置は1PPを支持し、飛来球への反応時間は3PPで短かった。視点によって見渡せる情報が変わるため、要求の違う課題で結果が一致するとは限らない。ただし、これは測定結果を理解するための解釈であり、あらゆる課題の優劣を決める規則ではない。講義p13・25も、別の実験で異なる結果があり得ると述べている。
自作の理解確認: 「この研究は3PPで周囲の球へ早く反応したので、3PPでは身体所有感も強く、移動課題も速い」と報告された。二つの追加された結論を、実際の指標の結果を使って訂正しよう。さらに「自己位置感覚に差なし」とだけ書く危険を説明しよう。
解答と根拠
身体所有感は1PPを支持し、移動課題の所要時間も1PPで短かった。球への反応時間の結果を、その二つへ広げられない。また、環境内の居場所への問いでは差が限られたが、原著の仮想身体内のSelf-Locationは1PPを支持した。質問の対象を省くと異なる尺度を混ぜてしまう。
根拠:第2回 PDF p13・14・15・16・17・18・19・20・21・22・23・24・25 出典の詳細
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