この節の目次
前の節では装置のカメラ位置と動作反映を確認した。今度は利用者に「どう感じた?」と聞く。仮想の手が表示されているだけでは、その手を自分のものと感じたとは限らない。発言を三つの問いへ分けられるようになろう。
身体の体験を捉える三つの問い
エンボディメント(sense of embodiment)は、仮想の身体を通して、自分の身体が仮想環境にあると感じること。この講義では身体性と呼び、次の三要素で捉える。
| 要素 | 何を尋ねるか | 仮想の身体を使う例 |
|---|---|---|
| 自己位置感覚(sense of self-location) | 自分はどこにいると感じる? | アバターの立つ位置に、自分がいると感じる |
| 運動主体性(sense of agency) | 動作を起こし、制御しているのは自分だと感じる? | 仮想の手が、自分の意図で動いたと感じる |
| 身体所有感(sense of body ownership) | 見えている身体は、自分の身体だと感じる? | 仮想の手を、自分の身体の一部と感じる |
自己位置感覚は、地図を読める能力やカメラ座標の知識とは違う。場所を説明できるかではなく、自分がその場所にいるという感覚を問う。運動主体性も、装置が入力を受け取ったかという仕様ではなく、自分が動かしたと感じたかを問う。
右手が上がったとき、何まで分かるか
利用者が右手を上げると、画面の仮想の右手も上がるとする。これは装置が動作を反映した状態だ。その利用者が「自分が上げた」と答えれば、運動主体性への肯定になる。しかし「遠くの人形を操作しているだけで、自分の手には感じない」と続ければ、身体所有感への肯定はない。
動作の対応を見てから、三つの感じ方を別々に問う
現実の右手を上げる

システムが利用者の動作を受け取る。
仮想の右手も上がる

この表示から、感じ方までは確定しない。
- 自己位置感覚
- 自分は、その身体の位置にいると感じる?
- 運動主体性
- その手を、自分の操作で動かしたと感じる?
- 身体所有感
- その手を、自分の身体だと感じる?
この発言に、自分の居場所についての説明はない。したがって、自己位置感覚の強さは保留する。「動かせた」という一つの回答から、三つ全部が強いとは決められない。
逆に、見えている手を「自分の手だ」と感じても、その手が勝手に動き「自分が動かした感じはしない」と答えることは、三要素を区別する説明例として考えられる。この場合も、所有と制御は違う問いだ。この例は研究の実測結果ではなく、発言の読み分けを練習するための仮定である。
環境にいる感覚は、身体への帰属と分ける
講義p9のプレゼンス(sense of presence)は、仮想環境に自分が存在するという感覚だ。「環境の中にいる」は環境との関係を述べ、「この手は自分のもの」は身体への帰属を述べる。身体を表示しない体験でも、環境にいる感覚を問うことはできる。
第1章の身体性は、動きを体験へ反映する装置の特徴を扱った。この章では、仮想の身体を人がどう感じるかを扱う。同じ日本語でも、装置の働きと人の感覚では対象が違う。講義p9–10が述べるように、「身体性」「プレゼンス」「没入感」の使い方は文献で必ずしも統一されていない。研究を読むときは、訳語に加えて実際に尋ねた質問を確認する。
ここまで分けた問いを、次の節では測定項目として使う。
発言を、書かれた範囲で読む
自作の理解確認: 「仮想の身体が立つ場所に自分がいると感じた。腕は自分の意図どおり動いた。ただ、自分の身体だという感じは弱かった」。三つの要素へ、それぞれどの発言が対応するか説明しよう。
解答と根拠
仮想の身体の場所にいる発言は自己位置感覚への肯定。意図どおり動いた発言は運動主体性への肯定。自分の身体という感じが弱い発言は身体所有感の弱さを述べる。異なる問いへの回答が混在しているので、「身体性はある/ない」の一言へまとめず、要素を残して説明する。
根拠:第2回 PDF p8・9・10・11・12 出典の詳細
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